風も吹き去らないうちに花が散ってしまうように、人の心は移り変わっていきます。親しかった年月のことを思うと、しみじみと感動して聞いた言葉はどれもみな覚えているのに、人は自分から離れたところに行ってしまいます。それが世の習いとはいっても、別離は人の死よりもはるかに悲しいものです。
だからこそ、白い糸が色に染まることを悲しみ、道が二つに分かれていくことを嘆く人もいたのです。堀河院の時代の歌の中にあります。
昔見し 妹が墻根は 荒れにけり つばな混じりの 菫のみして
(むかし愛した人の家の垣根も今は荒れ果ててしまった、雑草の中にただスミレが咲いているだけで。)
このさびしい景色も、そんな思いを歌ったのでしょう。
※「白い糸が…」=源光行『蒙求和歌』からの引用。
「堀河院の時代」=康和年間(1099〜1103年)に16人の廷臣が題を決めて百首ずつ詠進した。